熱心なサッカーファン、特に国境という小さな区切りを越えた興味を持つ者たちにとって、ワールドカップ(W杯)は必ず興奮を約束してくれる大会だ。過去にはなかったような形で世界のメディアからの注目を集めている日本代表にとって、今大会はエリートの仲間入りをするチャンスとなる。オンラインであれ紙媒体であれ、各国の大会プレビューはザッケローニのチームに少なからずスペースを割いてきた。世界中からの楽観的な予想が的中したとすれば、この国のサッカーはかつて到達不可能だと考えられていた領域にまでたどり着けるかもしれない。
イギリス
メディアやサポーターがサムライブルーをどう捉えているかは国ごとに異なっているが、まずは我が国イギリスからだ。公共放送『BBC』は、グループステージを突破したとすれば日本がもう少し先へ勝ち進めるかもしれないとの見方を示した。
「アジア王者である日本は技術的に非常に高い国だ。ディフェンス面には疑いも残るが、サプライズを起こす可能性もある。予想外のことを予想できるかもしれない」
ライバル局の『ITV』はもう少し控え目な見方だが、日本代表にベスト16進出のチャンスがあると見ていることに変わりはない。
「ボール扱いに優れた選手が多いが、守備にはやや軽さもある。大きな躍進を見せることは考えにくいが、グループCの突破は十分に狙うことができる」
イギリスの新聞各紙はさらに好意的な捉え方だ。『デイリー・テレグラフ』の記事では、ユーモアと称賛を交え、息の合ったパスワークを見せる日本代表を「サムライサンバ」と表現している。「スキルとスピードのある攻撃的なチームで、サッカー通に好まれそうだ。(ベスト16でイングランドに勝って)イーストロンドンのバーで彼らのユニフォームが引きちぎられるかもしれない」(エバン・ファニング記者)
『インディペンデント』は高い得点力を持つ岡崎慎司に注目し、ビッグネームである香川や本田を霞ませる活躍を見せるかもしれないと述べている。
英国のウェブサイト『ブリーチャー・レポート』は、日本のスタイルに結果がついてくるかどうかという予想を調査した。日本が今大会でどこまで勝ち進めるかというアンケートに、約1500人の読者が回答した結果は以下のようなものだ。
・グループステージ敗退 16.1%
・ベスト16 48.6%
・準々決勝 23.5%
・準決勝 3.4%
・決勝 8.4%
イギリスで最も売れているサッカー雑誌2誌の一つ、『ワールド・サッカー』は大きな紙面を割いてザッケローニのチームを分析し、W杯での期待度を精査した。同誌は日本代表が「少なくとも2010年のパフォーマンスに並ぶベスト16を狙っているはず」としながらも、南米勢に対する相性の悪さからコロンビアには苦戦する可能性を指摘している。
『フォー・フォー・ツー』はより楽観的に見ており、日本がベスト8に到達できるという予想で分析を締めくくっている。「2010年大会で準々決勝進出を逃して以来、日本は進化してきた。最後の詰めを欠いている印象はあり、より抜け目のないアグレッシブな有力国には敵わないかもしれないが、ボール扱いに関しては世界最高の国の一つだ。よく指導されており、高度に組織されている」
大阪在住の英国人サッカーライター、ベン・メイブリー氏は『ガーディアン』に「ザッケローニの日本代表は、最高レベルの相手と戦うときにこそ最も効果的なパフォーマンスを見せてきた」と述べている。
他の多くの見方と共通しているが、彼も日本の二面性に着目している。「調子が良い日であれば、国際サッカーの本当のトップクラスの相手さえ苦しめ、破ることができる力がある。だが劣勢を強いられると、ディフェンスはほぼどんな相手にでも屈してしまうことがある」
メイブリー氏は山口と大迫の2人を今大会でブレークするスター候補に挙げ、本田のコンディションには多少の不安があるとした上で、日本が勝ち進む可能性があるかどうかは香川(「すでに日本の歴史上最も特別な選手の一人」)のパフォーマンスに大きく左右されると予想した。
同氏は日本代表がグループステージを突破できると予想しており、イタリア、イングランド、あるいはウルグアイとの対戦となりそうなベスト16でも良い勝負ができると見ている。
ヨーロッパ
ドイツ、スペイン、イタリアのメディアもそれぞれの視点を述べている。『フットボール・イタリア』のロレンツォ・ヴィチーニ氏は、日本が「見応えのある攻撃的なチームで、ブラジルでの躍進を狙っている」として、甘く見る相手はやられることになると論じている。
ドイツの国際放送局『ドイッチュ・ヴェレ』は、現在ブンデスリーガでプレーしている8人の代表選手に注目し、日本には大会の終盤に勝ち進むチャンスもあると評した。別の特集の中で、柿谷はポグバ(フランス)、ピアニッチ(ボスニア)、クラーシ(オランダ)らとともに注目の選手10人の中に挙げられていた。
ここまでポジティブな論調だが、スペインでは一転。辛口の有力スポーツ紙『マルカ』は、より力強いフィジカルを持つ相手に対し、日本はグループから勝ち進むことができないと評価している。『アス』はもう少し好意的で、特に本田とザッケローニの能力を称賛。日本は「技術面で強い成長の兆しを見せており、攻撃面を進化・改善させ続けている」と評した。
北アメリカ
北アメリカでは、日本代表に対する評価や予想は様々だ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、投資銀行ゴールドマン・サックスがリリースしたW杯レポートについての記事を掲載した。サッカーの国際試合の歴史のすべてを分析したデータに基づく統計モデルを用いて、参加各国の優勝確率が算定されているが、日本の数値は0.0。オーストラリアやアルジェリア、イラン、韓国などの国をも下回っている。日本のファンにとっては幸いなことに、このモデルは各チームの現在の力は考慮に入れていないものではあるが、この純粋に歴史的な予想は過去に大きな成功を収めてきている。
『トロント・サン』も、日本への期待は必ずしも全面的にポジティブなものではない。「日本はこの大会で良い戦いをするように思えるが。ディディエ・ドログバとコートジボワールとの激突は楽だとは思えない。ギリシャがコロンビアとともに勝ち進むのではないか」 一方で、より日本を信じているメディアもある。『ニューヨーク・タイムズ』は「”アジアのブラジル”はサッカーの強豪国として評価を確立したいと望んでいるだろう」と記し、米国の『ラテン・ポスト』は日本にはブラジルで勝ち進むだけのスピードとスキルがあるとしている。
最後はFIFAの言葉を借りるべきだろう。「日本の4-2-3-1システムは、流れるようなサッカーで大会の中でも特に目を引くものとなりそうだ。日本が勝ち進むという期待は高い」と公式の大会ガイドで評されている。
少なくとも、世界が日本代表に良いサッカーを期待しているのは間違いない。世界を驚かせると信じる者もいる。日本サッカーへの思いを心に抱く我々一人ひとりがその期待通りになることを望んでいる。
ベスト16あるいは準々決勝にまでも進むことができたとすれば、日本がサッカー界のエリートレベルに達したと決定的に証明されることになる。
文/クリス・コリンズ
セルティックとアーセナルを専門とするスコットランドのサッカーライター。Jリーグのプレースタイルに魅せられ、様々な媒体でJリーグに関しても執筆している。ツイッターアドレスは @chriscoll10
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